詩人とウィスキー

 萬年筆くらぶ会員の冨澤文明さんは詩人である。「十八歳の時から詩に憑かれ、詩の営為を唯一の生き方途と信じ、そこにすべての自己証明を賭して生きてきた」と、冨澤さんの著書『夏の栞』(七月堂 一九八三年)のあとがきにある。 詩…

モンブラン 344

 student model(1950-1958)とモンブラン関連の資料には書かれている。普及版であったらしく、クリップの鍍金が剥がれてしまっているものが多い。ペン先は適度に柔らかく、滑らかな書き味は現行品のモンブランと…

裸婦のシール(seal)

 手紙を書く。受け取る人を思い浮かべながら語りかける。出会った人とのコミュニケーションの時間だ。便箋をたたみ封筒に入れる。糊付けして、シール(seal)とシーリングワックス(sealing wax)を取り出す。アルコール…

カードスタンド

 1880年頃のイギリスのものだと、私がよく遊びに行くアンティークショップの店主は言う。 子犬を胸に抱き、壁際に佇む婦人。幅7センチ、高さ9センチ。ブロンズの重みが掌で心地よい。壁と婦人とでは金属の成分が微妙に異なってい…

スケッチの愉しさ

 絵を描くことはそれほど好きというわけではないが、スケッチは愉しいと感じるときがある。 書斎から出て屋外に身を置き、そこでスケッチブックを広げる。コーヒーを一口。それだけでも気持ちが晴れる。風が頬にあたる。太陽の日差しが…

新しい絵との出合い

 今日はどのような絵に出合えるだろうか。 美術館や個展に行く日の朝、そう思う。しかし、そう思うのは美術館や個展に行くときだけではない。散歩に出掛けるときもそう思うことがある。散歩の途中で描いているスケッチ。自分の絵なのに…

早朝のスケッチ

 春から秋にかけて早朝4時頃から散歩をする。この時間だと人はいない。冷ややかな空気の中に季節の匂いを感じる。日中は聞こえることのない、遠くを走る電車の音が聞こえる。日常が始まる前の非日常が好きだ。 散歩の途中で休憩を兼ね…

レターラック

 私は年間、約1000枚の葉書を書く。1日平均3枚ということになる。毎日書くわけではない。1日1枚という日もあれば、まとめて5~6枚という日もある。記念切手を貼りたいので官製葉書は使わない。 文具店に入ると、必ずカードを…

葉書スタンド

 旅先の友人から素敵な絵葉書を貰うことがある。万年筆のインクが鮮やかだ。この風景の中で、ゆっくりと流れる時間に身を任せているのだろうと、暫し写真を眺める。友人のことだ、今頃、美味しい酒でも飲みながら、一日の終わりのひと時…

満点の星空色のインク

 『ミッドナイトブルーのインク』を読まれたKさんから、このような手紙をもらった。  「あの空はもう一度見たい。あの空を見るためだけにスペインに行くのもいい。」 私はスペインに行った事は無いので想像する事すらできないのです…