サントリーリザーブのボトルとインク

 その昔は、多くのデパートの万年筆売り場でモンブランの万年筆が売られていた。ショーケースの上にはモンブランのロゴが刻印されている真鍮のキャップが付いたクリスタルガラスのインクボトルが置かれていた。とても透明感のある魅力的…

友人の死

 郵便受けに手紙を取りに行く。差出人を確認する。見覚えのある住所。見覚えのある名字。しかし、名字の下の名前に心当たりがない。よく見れば筆跡にも心当たりがない。その瞬間、私の心は凍り付く。 このような別れを今まで何度経験し…

ガシガシトレドの冨樫さん

 外でスケッチをしていると目に見えるもの全てを描きたくなる。海外でのスケッチの場合は尚のことで、目の前の感動的な風景を全て持って帰りたくなり、あれもこれもと一枚の紙の中に詰め込んでしまう。 画家の古山さんに「詰め込み過ぎ…

fuenteという奇跡

 私は萬年筆くらぶという万年筆愛好家が集う会を主宰している。くらぶでは『fuente』という会報誌を年3冊発行しており、毎号、万年筆愛に満ちた文章が会員から投稿されている。 書籍『fuente』を楽しむ。それは文字通り『…

ふでDEまんねん スケルトン

 「作ってみました。使ってやってください」との簡単なメモが添えられていた。箱の中から出てきたのは透明軸のふでDEまんねんだった。 エッ! エッ?! エー!! 透明軸のふでDEまんねんスケルトンを手にして、私は驚きの声をあ…

詩人とウィスキー

 萬年筆くらぶ会員の冨澤文明さんは詩人である。「十八歳の時から詩に憑かれ、詩の営為を唯一の生き方途と信じ、そこにすべての自己証明を賭して生きてきた」と、冨澤さんの著書『夏の栞』(七月堂 一九八三年)のあとがきにある。 詩…

裸婦のシール(seal)

 手紙を書く。受け取る人を思い浮かべながら語りかける。出会った人とのコミュニケーションの時間だ。便箋をたたみ封筒に入れる。糊付けして、シール(seal)とシーリングワックス(sealing wax)を取り出す。アルコール…

K女史からの転居連絡葉書

 「下記の住所に転居しました。近くにお越しの際は是非お立ち寄りください。」 よく見る文面である。今まで一度も遊びに行ったこともないのに遊びに行ってもいいのかな…。仕事関係で知り合った人で、そんなに親しい間柄でもないけど……

ダイヤストアの閉店

 アメ横をブラブラと歩くと思いがけないものに出会ったものだ。並行輸入品であったり、どこかの店の売れ残り品であったり、セミアンティーク品であったりした。それらは他ではなかなか見ることもできない品ばかりで、ワクワクしながら迷…

有安さんからの絵葉書

 「そんなことを言っていたら、いつまで経っても実現することはできませんよ!」 有安さんは言い放った。少し怒気すら感じられる言い方だった。 有安さんはアンティークショップ「飾り屋倶楽部」の店主だ。知り合って10年以上になる…