スケッチの愉しさ

 絵を描くことはそれほど好きというわけではないが、スケッチは愉しいと感じるときがある。
 書斎から出て屋外に身を置き、そこでスケッチブックを広げる。コーヒーを一口。それだけでも気持ちが晴れる。風が頬にあたる。太陽の日差しが皮膚を刺激する。描いているときに吸った空気、聞こえてきた音、流れた時間。それらがスケッチ画の中に染み込むような気がする。
 どんなに美しい景色でも、写真を見ながら描いたのでは、あまり愉しいとは感じない。私にとっては、写真を絵画に(2次元を2次元に)変換する面倒な作業となってしまう。
 その点、屋外でのスケッチは3次元空間を2次元に生まれ変わらせる再生の作業なのだ。奥にあるのか手前にあるのかで線の太さに変化をつける。明るいところと暗いところを観察しながら暗い部分にはハッチングを加える。すると明るい部分が浮かび上がってくる。現時点では、この2つのテクニック(?)しか知らないが、現実の風景をどのように紙の上で処理するか、自分なりの方法で取り組むこと、それが面白い。
 正解はない。誰からも文句は言われない。しかし、1週間後、1カ月の自分からは「苦情」が出る。素人なりに直したいところが見えてくるから不思議だ。そのときには再び同じポイントまで散歩をすることになる。「また来たよ」旧友と再会でもしたような気分で目の前の風景と対話をする。何度目かのスケッチの際は季節の移り変わりを感じることもある。スケッチの愉しさは一言で語ることはできない。