レターラック

 私は年間、約1000枚の葉書を書く。1日平均3枚ということになる。毎日書くわけではない。1日1枚という日もあれば、まとめて5~6枚という日もある。記念切手を貼りたいので官製葉書は使わない。
 文具店に入ると、必ずカードをチェックする。紙質、色、厚さ、この3つの条件を満たしてくれるものはなかなか見つからないが、気に入ったものが見つかれば、まとめて購入する。数百枚ということもある。そして、全てのカードの紙面の一部に写真や絵などを貼り、反対の面に私の住所氏名印を押し、お気に入りの記念切手を貼る。つまり、相手の宛名と本文を書くのみという状態にしておくのである。枚数が多いと半日仕事になることもある。しかし、この作業を済ませておくと、筆記への取りかかりが極めてスムーズにいくのだ。
 さて、この、宛名と本文が書かれるのを待つ状態になった葉書であるが、大半はレターボックスに収納し、20枚程度をレターラックに立てておいている。
 レターラックというものは、一般的には受け取った葉書を立てておくものなのであろう。私もそのように使っているレターラックもある。実はこの原稿を書くにあたって書斎の中にあるレターラックの数を数えてみた。全部で6個。いずれも木製のアンティーク品で、それぞれがいい味を出している。受け取った手紙を大切にしたい、手紙を送ってくれた人を大切にしたい、そんな静かながらも熱い思いがレターラックから滲み出ている。
 その中でも一番のお気に入りが、銀座のアンティーク店で買い求めたもの。幅が15センチと、レターラックとしては小振りのものなので机上に置くことができる。曲線の美しさが妖麗であり、木肌の艶は、時を重ねたものだけが身に付けることができる特権のようなものを放っている。中の仕切りには上質の薄い革が張ってあり、職人の技と思い入れが感じられる。常に、身近に置いておきたいと思わされる逸品である。この逸品に、私は前述の宛名と本文が未記入の葉書を収納している。
 それは、私の机の上、左奥に置いてある。さっと葉書を取り出すことができる位置だ。この一番のお気に入りのレターラックからお気に入りの葉書を取り出す。そして、相手を思い浮かべながら、これまたお気に入りの万年筆で用件を書く。発送相手とのひと時の時間の共有。これを至福の時と言わずして何と言おうか。
 至福の時を演出してくれるレターラック、そんな品が 身近にあることの幸せ。
 私は年間、約1000回の、そんな幸福を感じている。

      万筆専門店・万年筆博士発行『HAKASE通信』での連載(その3)