葉書スタンド

 旅先の友人から素敵な絵葉書を貰うことがある。万年筆のインクが鮮やかだ。この風景の中で、ゆっくりと流れる時間に身を任せているのだろうと、暫し写真を眺める。友人のことだ、今頃、美味しい酒でも飲みながら、一日の終わりのひと時を楽しんでいるのだろう。または、次はこんな面白いことをやってやろうなどと考えながら過ごしているに違いない。そのようなことを考えながら絵葉書を見ていると、私まで一緒に旅をしている気分になってくる。愉快だ。
 素敵な絵葉書を仕舞い込んでしまったら勿体ない。暫くの間は、絵葉書を机の上に置いて楽しむことにしている。
 ある日、骨董屋でいいものを見つけた。葉書スタンドとでも言おうか、木製の円形の台の上にリングが2つ取り付けてある。台の直径は約10センチ。リングの直径は7センチ。そのリングに葉書を挟んで立てる。この葉書スタンド、作られてから既に100年は過ぎているのだろう。古さの中に深みのある美しさを伴っている。時を重ねたものだけが帯びることができる美しさだ。決して人工では作ることはできない。1900年代初頭に作られたという私のお気に入りの机と、その机上に散乱している万年筆などの文房具に、葉書スタンドは絶妙に溶け込んでくれた。
 このアンティーク葉書スタンドのお陰で、私は机に向かうとき、友人たちと語り合っているかのような、ゆったりとした思いに浸ることができる。友人たちの生き様に励まされる思いがして、私もライフワークに取り組むことができる。
 葉書スタンドは単に葉書を立てておくためだけのものではなく、コミュニケーションの道具なのである。絵葉書で自分の生活の一部を伝える。受け取った者は、その葉書の絵と文字を見ながら、送り主の心のあり方を十分に楽しむ。葉書スタンドはその為の道具なのだ。そのような道具が確かに存在していたことが嬉しい。そんな時代が、ひと昔前にあったのだ。送り主の気持ちを楽しみ尽くす…そんな時代が。
 机上の葉書スタンドは、絵葉書と共に、今日も私にいろいろと語りかけてくれている。

      万筆専門店・万年筆博士発行『HAKASE通信』での連載(その2)