裏紙愛好会

 実は、私は「裏紙愛好会」の会長を長いこと務めている。裏紙愛好会というのは、資源の問題や環境の問題に触れることもあるが、根底には、裏紙に「儚さ」や「侘しさ」を感じ、愛おしくて捨てることができない人間の感情を扱う会である。
 私は、まだ使うことのできる裏紙をゴミとして捨てることができない。現職の頃、会議資料は必ず裏紙に印刷をしていた。退職後もフエンテのゲラ刷りなどは裏紙に印刷している。
 ところで、私はメモ用紙にも裏紙を使っているのだが、hiramekiというメーカーから、その名もズバリ「裏紙メモカバー」という商品が販売されている。サイズがMとSの2種類あり、A4サイズの紙をそれぞれ4分の1、8分の1にカットしたものに2穴パンチで穴を開けて、リングを通して綴じるというシンプルな機構だ。カバーにはイタリアンレザーが使われており、使っていくうちにいい味わいへとエイジングされていく。筆記具を差す部分も用意されているので、ペンケースから筆記具を取り出す必要はない。8分の1カットのA7サイズのSはズボンの尻ポケットにも入るサイズなので、気楽に持ち歩くことができる。A6サイズのMは鞄用だ。
 この「裏紙メモカバー」を使うにあたって楽しいことがいくつかあるが、その一つに紙のカットがある。A4サイズの紙を折ってペーパーナイフでカットしていく。手間が掛かるといえば手間がかかる。しかし、裏紙を切っていくときの優雅な気持ちに加え、何とも言えぬ神秘的で力強い気持ちになる。裏紙に再び生命を吹き込む。裏紙の新しい人生が始まる(何と大ゲサな…)。このメモ用紙にどのようなことが書かれることになるのかという期待感。資源を無駄にしていないという確信。それらを感じながら作業をする。シャリシャリという音と、ペーパーナイフから指に伝わってくる抵抗感が心地良い。
 そして、そのカットした紙を裏紙メモカバーにセットして紙の束をパラパラと捲る。裁断面が不揃いなのが実にほのぼのとしていて温もりがある。ビシッと揃っているのは気持ちはいいが、どことなく冷たい。不揃いで、しかもペーパーナイフでカットしたザラザラ感が、「私は紙で御座います」といった感じを主張していていじらしい。
 私はこの「裏紙メモカバー」を常に持ち歩き何でもメモする。頭で考え頭で記憶することはしない。紙の上で考え紙に記録する。紙には無限の可能性がある。

 夜空を見上げ、1人空想に耽る。
 世界中の人が一日に一枚の裏紙を再利用、もしくは捨てないとすれば、その総数は77億枚。77億枚の紙を重ねると厚さはどれくらいになるかと言えば、なんと、約770㎞。地球の大気の厚さが約100㎞。人工衛星ひまわりの高度が36000㎞。月までの距離が384400㎞。徒歩で11年掛かる。全世界の人が、一人一枚の裏紙を無駄にしないことを500日(1年半弱)続ければ、裏紙の厚さは月に届いてしまう。

 ところで、裏紙愛好会というのは何名くらいの会員がいるのですか? という質問。
 はい、会長の私を含めて1名です。